ミレイユは、大人っぽい。
紅茶を飲む仕草も、窓際で本を読む姿勢も、パソコンで仕事の依頼をチェックしている時の顔も。
私には無い大人っぽさだ。
それが、私のつい最近までのミレイユの印象だ。
でも――
不安な夜
「あらまだ起きてたの?遅くなるから先に寝てなさいっていったのに」
ミレイユはシャワーを浴びて濡れた髪を冷やさないようにタオルで拭いながらベッドに腰掛け、私がまだ起きていることに気づくとそう言い放った。
「うん。ミレイユから借りた本、読んでたから」
「明日は仕事なんだから早く寝なさいよ。アンタに限ってないとは思うけど、失敗しちゃ困るんだから」
私はさっきまで読んでいた本を思い出す。
戦争物の本で、よく映画であるようなありきたりなストーリーではあったが、私はその本の一場面に心引かれた。
兵士の一人が、銃で撃たれ死ぬシーンの後、国から通達された作戦の遂行よりも友の復讐を優先し、一人で大隊へと突撃するシーンだ。
――、もし私が仕事の最中に撃たれたらミレイユは悲しんでくれるだろうか。仕事の遂行とか関係なく、仕事のパートナーを失うという悲しみに暮れてくれのだろうか。
それを考えると寝れなくなってしまい、結局ミレイユが仕事を終え、こうしてベッドに入ってくる時間まで起きていたという訳だ。
ミレイユはまだベッドに腰掛け、髪の毛を拭いている最中だ。
私は逆を想像する。
もし、ミレイユが撃たれたら。
きっと私は、泣くんだろうな。昔の自分からじゃ想像もつかないような答えが、心の中から飛び出て私は内心驚く。
いつから私はこんなにミレイユに依存してしまっているのだろう――。
でも、いつかは、こんな仕事を続けている内は、多分どちらかが死ぬことになるんだろうな。
そう考えると胸の奥が締め付けられるような痛みを襲った。
「――そんなの、嫌だ・・・」
「どうしたのよ?急に」
私の口からこぼれた独り言に、髪を拭き終えたミレイユはベッドに体を滑り込ませながら優しくそう言った。
私は、何も答えずにミレイユの手を握る。
「霧香、ほんとにどうしたのよ?今日は」
「・・・なんか、ミレイユがいなくなるの想像したら、怖くなって・・・」
「ふふ、アンタの前から居なくなるわけ無いじゃない。私達は二人でひとつの殺し屋よ」
電気の消えた部屋で私は、情けないような言葉をミレイユに発する。ミレイユはその言葉を決してバカにするわけでもなく、真摯に応える。そういう所も大人っぽい。
「じゃあ、もし私が死んだら・・・、ミレイユ、悲しい?」
「悲しいとか、悲しくないとか以前に、私を置いていったアンタに怒りを覚えるわね」
「そ、そんな・・・」
「当たり前でしょ。アンタは私がどれだけ霧香に依存しているか分かってないの?」
「わ、私だって、ミレイユに頼ってばっかりで・・・。多分、私の方が依存してる・・・」
「へぇ〜、言うようになったわね、アンタ」
ミレイユが悪戯っぽくそういうと、急に上体を起こし、私に馬乗りになる。
「じゃあ、どれだけ私がアンタに依存してるか教えてあげるわ」
ゴクリ、と私は生唾を飲み込む。頬が高潮しているのが、分かる。
ああ、どこか期待してたのかな、私。
――ほらね、私の方がミレイユに依存してる。
「――〜〜〜!」
突然のキスに、脳が痺れる様な感覚が襲う。ミレイユは、昼間の大人っぽさは微塵も見えない。
ミレイユは、大人っぽい。
紅茶を飲む仕草も、窓際で本を読む姿勢も、パソコンで仕事の依頼をチェックしている時の顔も。
私には無い大人っぽさだ。
それが、私のつい最近までのミレイユの印象だ。
でも――
夜のミレイユは、子供っぽい。
とろけるような刺激のなか、私はそう思った。
短いお話。ミレイユは子供っぽく振舞うのが得意と予想