「何かが・・・、変だ」
トゥルーデが、綺麗に片付いているハルトマンの部屋を見て、首をかしげた。
ベッドの上にも、勿論床にもゴミ一つなく、以前までそこら中に散らばっていた服もきちんとクローゼットの中に仕舞い込まれている。
トゥルーデにとっては喜ばしいことなのだが、突然こんな風になったらなったで奇妙な違和感を覚える。
一体何が・・・、と思考の海に沈もうかとした時、ハルトマンとトゥルーデの共同部屋のドアがノックされた。
「あのー・・・、バルクホルンさんが呼んでいるってきいて来たんですけど・・・」
ノックの犯人は宮藤だった。確かに、昼頃にミーナに宮藤の居場所を聞いた記憶はあるが、わざわざ探すほどの用事でもなかったのでそれから部屋に戻ったのだが・・・――しかし、ちょうどいい、とトゥルーデは宮藤の顔を見ながら思った。
「ちょうどよかった、宮藤。お前に聞きたいことがあるんだ」
「私に、聞きたいこと・・・・?」
バルクホルンの気になること
「エーリカ・・・、重いんだけど」
ここのところ最近シャーリーは朝、目が覚めると大抵体に重みを感じる。その原因は、エーリカが甘えるように体に抱きついてくるからであって、シャーリーもそれを嫌とは思わないが流石に朝にはそれを退けようとするのだった。
シャーリーの胸を枕代わりにしていたエーリカはシャーリーが姿勢を変えたことによって、揺り起こされた。
「うー、もう朝かぁ」
一昨日だか昨日だかに宮藤が干してくれたシーツに起きたくないとばかりに顔をうずめるハルトマン。
一方シャーリーは寝起きはいい方なので、ベッドから降りると窓を開け放って、朝のさわやかな風邪を部屋に招き入れる。
エーリカは朝の冷たい風から逃れるようにブランケットに包まるがシャーリーはそれを許さなかった、
「こーら、早く起きないと堅物に怒られるぞ〜」
「いーもん、トゥルーデにはここに居る事いってないし」
ハルトマンは、ニヒヒ、と悪戯っぽく笑うと主の居なくなった枕に頭を乗せる。そして、目を閉じると、言葉を続けた。
「ふふふ、眠っているお姫様を起こす方法って、昔から決まってるでしょ?」
「――そうだな、昔からたった一つだけだ」
シャーリーはそう言うと、唇を近づけるのであった。
そんな様子を遠くから、自前のオペラグラスで眺めるのはゲルトルート・バルクホルン。
隣で眠そうに目を擦っているのは、宮藤芳佳であった。
「おっ・・・・おい!!今、フラウがあ、あの・・・リベリアンとっ!!」
「は、はいっ!き・・・、キスしてましたね・・・」
何故、朝から外でシャーリーの部屋を眺めているのかというと、話は昨日に遡る。
――・・・
「聞きたいことってなんですか?」
「ああ、それなんだが、最近エーリカの様子がおかしいとは思わないか?」
「ハルトマンさん・・・ですか?いえ、私はなんとも思いませんでしたけど」
「そうか・・・、いや、それがなこの部屋を見てくれれば分かると思うんだが、最近ハルトマンはだらしなくなくなったんだ!!」
やたら語尾の方を強くして言うトゥルーデに宮藤は少し驚くが、確かに今までは汚かったハルトマンの部屋も今は綺麗に整っている。
「そ、そういえば」
宮藤は昨日、シーツを干している最中にルッキーニが言っていたことを思い出す。
「ルッキーニちゃんが、ハルトマンさんにシャーリーさんを取られたって怒ってましたね」
「リベリアンにか?そういえば、アイツと二人で夜間哨戒に行ってからだな、様子がおかしいのは・・・、そうだ!宮藤、お前に重大な頼みがある」
「頼み、ですか」
「ああ、明日は幸運にもお前も私も非番だったはずだ。明日、一日かけてあの二人を監視するぞっ!」
「はい!って、いいんですか。そんなことして〜」
「部下の悩みを解決するのも、上司の務めだ!ということで、明朝六時に庭先に集合だぞ」
・・・――
ということがあったわけで。
「むむむ、リベリアンめ・・・、ハルトマンをたぶらかしてどうするつもりだ!!」
「あ、あのー、お二人はただ付き合っているだけなんじゃ?」
宮藤は、二人のキスを目の当たりにして顔を真っ赤にしながらそう言うが、トゥルーデは聞く耳を持たない。
「大体、エーリカにはまだ恋人とかそういうのはまだ早いんじゃないのか!?どう思う、宮藤!」
「どうって言われましても・・・、それはハルトマンさんとシャーリーさん二人の問題ですし」
「いいや!ハルトマンの姉代わりとして・・・いや、最早姉も同然!姉として放ってはおけん!!!」
トゥルーデは拳をぐっ、と握り、宮藤からしたら意味不明な姉宣言を叫ぶ。
「はぁ・・・さいですか」
宮藤といえば、もはや上官の言葉を真面目に聞く気はなくなり、適当に相槌を返すのであった。
そんな二人に監視されているとは露知らず、エーリカとシャーリーは朝食を食べに食堂へやって着ていた。
以前までならシャーリーの隣はルッキーニが陣取っていたのだが、今はエーリカが占領している。ルッキーニは頬を膨らませながらしぶしぶとシャーリーの正面の席に座る。
今日の朝御飯は、食パンにガリア産のフルーツジャムであった。
「シャーリー、何のジャムがいい?」
シャーリーの食パンをひょい、と掠め取るとバターナイフを片手に聞く。
「そうだなー、じゃあ苺ので頼む」
「了解ー♪」
そんな二人の様子をみて、ルッキーニは低い唸り声を上げるしかなかった。
「なんだ、最近のお前達は随分と中がいいなぁ」
坂本は二人の様子を見て、はっはっはっはっ、と盛大に笑いながらそう言う。
そんな坂本の問いに、エーリカは「そうかなぁ?」と悪戯っぽく笑いながら言い、シャーリーは顔を赤面させている。
それを見てトゥルーデがフォークをぐにゃりと折り曲げるのを、宮藤は見ないようにした。
昼、いつものエーリカならお菓子を食べているか昼寝しているかだが、今日はハンガーにいた。
シャーリーがいつものように飛行脚を楽しそうに弄っている横で、エーリカはそれを眺めいている。
いつもならシャーリーは自分の愛機を調整しているのだが今日はエーリカの愛機・メッサーシャルフを調整中だった。
それを滑走路の物陰から、監視する影が二つ。
「うわぁー、いい感じですね」
「っち!リベリオンめ、ハルトマンのストライカーユニットが壊れたらどうするつもりなんだ!!」
「ちょっ!!バルクホルンさん!力入れすぎるとオペラグラス壊れますよ!!」
メキメキと音を立て始めたオペラグラスの身を案じて宮藤はトゥルーデに警告する。
「あ、ああ・・・そうだな。これ以上備品を壊すとミーナに叱られてしまう」
今朝フォークを壊したことについてミーナに怒られたトゥルーデは自粛する。
「ところで、なんでバルクホルンさんはお二人が付き合うことに反対なんですか?」
「反対ではない!ただ、妹(のような存在)であるハルトマンにリベリアンが相応しいかどうか調べているだけだ」
そんなやり取りを二人がしている頃、エーリカとシャーリーは二人だけの世界を形成していた。
「なぁ、エーリカ、最近部屋綺麗にしてるんだって?」
「誰から聞いたのさー、それ」
「宮藤がいってたよー。こないだシーツ回収しに行ったとき、片付いてて驚いたっていってたぞ」
「あー宮藤かぁ」
「でさ、なんでなの?」
「そ、それを言わせる気なの?」
恥ずかしそうに顔を赤らめたエーリカは、少し恨めしそうに言った。少し間を空けた後、小さな声でエーリカは言葉を続ける。
「だ、だって、シャーリーにだらしない奴だ、なんて思われたくないし・・・」
顔を赤らめているのを見られたくないのでエーリカは顔を伏せる。
「かっ」
「か?」
エーリカは、シャーリーの発した声を不思議に思い顔をあげると、シャーリーの胸が目の前にあった。
「可愛い奴だな〜!!お前〜」
グリグリ、と抱きしめられ頭を撫でられるエーリカ。最初抵抗はしたが、諦めシャーリーに身を委ねることにした。
「もう我慢できん!!」
トゥルーデは、草陰から身を乗り出し、ハンガーへと向かおうとするが宮藤に止められる。
「ちょ、バルクホルンさん・・・、ダメですってば!!」
「しかしだな・・・」
「そ、そういえば――」
正直に言うと、宮藤としてはエーリカとシャーリーの交際に関しては賛成であった。
(私もリーネちゃんとあんな関係になりたいなぁ)
という思いの産物でしかなかったが、憧れの関係を目の前で壊されるというのは宮藤としても面白くはない。
それに昼前にミーナから、トゥルーデの暴走を抑えるようにという任務も授かっていたのだ。
そんなミーナからもらった、トゥルーデの暴走を抑えるための言葉を言い放った。
「ハルトマンさんって、バルクホルンさんの妹の様な存在なんですよね?」
「ああ、そうだが」
「ってことは、ハルトマンさんとシャーリーさんが結婚したら――」
と、宮藤がここまで言いかけたとき、バルクホルンはハッ、と何かに気付いたような顔になる。
そのときバルクホルンに電撃走る――なんていうナレーションが付きそうな感じだった。
「い、妹(義妹)が増えるのか!!!」
宮藤は、そんなバルクホルンの様子を呆れた様子で眺める。
「そ、そういわれてみれば、リベリアンの奴はフラウにピッタリかもなぁ・・・」
そうして(宮藤にとっての)今回の騒動は意外な結末で終わった。
「別にさ」
抱きついたまま、シャーリーはハルトマンの耳元で囁いた。
「私は、エーリカがだらしなくたって、大好きだぞ」
エーリカは、照れながら、体を捻転させてシャーリーの唇に自分のそれをくっつけてから「私もだよ」とだけ答えた。
その日からまた、エーリカの部屋が汚くなったのは言うまでもないだろう。
ギャグテイストにしたかった作品。少し文が単調だったりして読みづらいなぁ