「ほら、着いたぞハルトマン」
何故か歩きたがらないエーリカを渋々背負って部屋まで連れて来たトゥルーデは、背中のエーリカに声をかける。
エーリカとトゥルーデの部屋ははっきりと二分化されていて、境界線を境にどちらが誰のスペースであるかは一目瞭然だった。
「フラウ」
「ん?」
突然の言葉にトゥルーデは聞き取れず、無意識に聞き返す。
「フラウ、って呼んでよ二人きりの時はさ」
溜息をつきながら、トゥルーデはエーリカを地面に降ろす。
「馬鹿な事言ってないでさっさと寝るぞ。ほら、早く自分のベッドへ行け」
「え〜、今日はトゥルーデのベッドで寝たいな。新年くらい綺麗な布団で過ごしたいよ」
「だからあれだけ大掃除をしろといったろう」
呆れ気味にトゥルーデはぼやく。
一応エーリカのスペースも多少はトゥルーデが片付けたのだが、大掃除を実行したのは三日前だった。
たったの三日でエーリカの部屋は元の惨状に戻り、流石のトゥルーデも怒る気すら起きなかった。
「…ねぇ、一緒に寝てもいいでしょ?」
上目遣いに頼むエーリカを見て、トゥルーデは少しドキッとしたがすぐに咳払いをして、それを悟れないようにする。
「…ったく、しょうがないな。今日だけだぞ」
「ふふっ、エイラみたい」
眠気の所為か、エーリカは物腰の柔らかな口調になっていて、それが妹を彷彿とさせた。
外気で冷えた布団に2人で入ると、やはり少し狭く感じられた。
しかし、エーリカはそれでも満足な様子で上機嫌であった。
「寒いから手を繋いでよ」
耳元で囁くように言うエーリカに対して、トゥルーデは少し照れながらも無言で手を握った。
「今日は優しいんだね、トゥルーデ」
「いつもちゃんとしてくれれば、私はいつだって優しく接するつもりだぞ、フラウ」
エーリカは、愛称で呼んでくれたことが嬉しかったのか、強く手を握り返した。
無言だが、決して居心地が悪いとはいえない時間が流れる。寧ろエーリカにとっては逆だった。
エーリカは右手に感じるトゥルーデの熱を感じながら、先程した占いの結果を思い出していた。
『想い人が、貴方の気持ちに気付く年になるでしょう』
エーリカはその結果に満足しながらも、小悪魔的な表情を浮かべる。
(早く私の気持ちに気付いてよね、トゥルーデ)
そうしてエーリカはこれから起きる事に思いを馳せながら深い眠りへと落ちていくのだった。
エーリカの寝息が聞こえ始めても、トゥルーデは眠れずにいた。
表面上は普通に装っていても、何故か心臓は落ち着く気配がなかった。
(何故だろう、フラウと一緒に寝ているだけなのに、落ち着かん…)
トゥルーデは、占いの結果をふと思い出す。
『貴方自身、気付かぬ想いに気付く年でしょう。』
占い自体、あまり信用しない性質なので余り気にも留めなかったトゥルーデだったが、ここに来てエーリカを意識してしまうということは、そういうことだろうか、とトゥルーデは考えたが、
(まさか、こいつに限ってそんな事…)
トゥルーデが、自分の気持ちに気付くのはもう少し先の話である。
お正月ssエーゲルverです。
地の文の表記をトゥルーデにするかバルクホルンにするかゲルトルートにするか悩みました