その一角には、綺麗に二つ分かれた部屋がある。
半分は小奇麗で生活必需品しかない、もう半分は乱雑に服やらごミやらが無造作に散らばっている部屋だ。
その部屋の主の一人、エーリカ・ハルトマンは規則正しく寝息をたてるもう一人の部屋の主ゲルトルート・バルクホルンを見下ろして悪戯っぽい笑みを浮かべた。
僕の罪、君の罠
体に少しの重みを感じて、バルクホルンはゆっくりと目を開けた。天井が明るい朝日に包まれている。
「もう、朝か…」
誰に言うでもなく、まだまどろんでいる意識の中でバルクホルンは呟く。
夏の間は、バルクホルンは裸で布団に入る事が多かった。その為か、夏であってもあまり夜に寝苦しく感じる事は無かった。
しかし、今日は少し違う。
体が何だか温かい。
その事を疑問に思っていると、自分の腕に何かが乗っている事に気づいた。
ハルトマンが掛け布団から頭だけを出して、バルクホルンの腕を枕代わりに寝息をたてていた。
「お、おいっ!!ハルトマン、何で私のベッドで寝ているんだ!」
意識が急に覚醒した。
バルクホルンは隣で寝ているハルトマンを揺り起こすと、ハルトマンは眠気眼を擦りながら上体を起こした。
「ん〜、ふぁぁ…おはよう、トゥルーデ」
ハルトマンが上体を起こしたと同時に、掛け布団からハルトマンの何にも覆われていない肢体が現れた。
「お、おい!何で、裸なんだ!」
「え…トゥルーデ、昨日のこと覚えてないの?」
「き、昨日のこと?」
ハルトマンは少し拗ねたような顔になったと思うと、直ぐに照れたような表情になって小声でバルクホルンの耳元に囁いた。
「昨日、あんなに愛してくれたじゃん」
「なっ…」
バルクホルンは、ハルトマンの手の込んだ悪戯だと分かっていても、顔を真っ赤にして動揺してしまう。
照れた顔が可愛くて、そして囁いた後に見せた悪戯っぽい笑みもバルクホルンの心を掴む。
(まったく…コイツは私の気も知らないで…)
バルクホルンは心の中で恨み言を呟きながら、ふと思いつく。
(いつもやられてばかりだと、思うなよ?)
「ああ、そうだったな…」
「えっ?ちょっ、トゥルーデ…んっ!?」
唇を塞いだ。
いつもの悪戯のお返しだと言わんばかりに、乱暴にバルクホルンはハルトマンの口内を舌で蹂躙する。
舌と舌が触れ合うと、ハルトマンは驚いたように目を開く。
ようやく、唇が離れたと思うと、ハルトマンは余り見せないような表情になる。
「な、いきなり何するんだよ。トゥルーデ!!」
「ん?”昨夜”みたいに抱こうと思っただけだぞ?」
いつもとは違って、主導権を握ったバルクホルンはニヤニヤとハルトマンを見つめた。
「ちょっ…さっきのは冗だ・・・んっ」
柔らかく控えめな胸を、バルクホルンは優しく揉む。
嬌声の様な声がいっそう、バルクホルンをその気にさせる。
「フラウが悪いんだからな。私の気も知らないで」
何か言いかけたハルトマンだったが、再びバルクホルンがキスでそれを遮る。
ベッドで押し倒している形になっているバルクホルンは、そのまま舌を首筋へとなぞる。
ハルトマンはくすぐったそうに、身をよじるがそれでも止めない。
そのまま乳房へと舌を這わせて、小さく立った胸の頂を甘噛みする。
「ん…トゥルーデぇ…」
ハルトマンは既に抵抗をやめていた、それどころか息を荒げて目を潤ませてバルクホルンのされるがままになっている。
ハルトマンが、胸を襲う感覚に気をとられるていると、バルクホルンの先程まで胸を揉んでいた右手がいつの間にか、腰の近くまで来ていた事に気付く。
「フラウ…ずっと、好きだった」
少し湿っている局部をバルクホルンは撫でるようになぞると、ハルトマンは初めて襲う感覚に思わず嬌声を上げる。
と、その時2人の部屋の戸がノックされる。
「バルクホルンさーん、ハルトマンさーん。朝ごはんできましたー」
二人が――というよりも、バルクホルンが――朝食の時間になっても来ないことを不審に思った宮藤が訪ねてきた。
「ちょっと…、宮藤が来たから…」
小声でハルトマンはそういうが、バルクホルンは行為を止めない。
代わりにバルクホルンが、戸の向こうにいる宮藤に聞こえるように大き目の声で返事した。
「ああ、すまない宮藤。今ハルトマンを起こすから、先に行っててくれないか」
「あ、起こすの手伝いましょうか?」
「いや、いい。宮藤は先行って食べていてくれ」
「はい、分かりました」
宮藤が去って行ったのを見計らうと、耳元で囁く。
「――フラウ」
宮藤が訪ねた間も行為を続けて、いやそれどころかエスカレートしていいた所為かハルトマンは、息が荒くなっていてバルクホルンにキスをねだっていた。
「な、なに?」
「好きだぞ」
優しく、キスを落とした。
ハルトマンの体が跳ねる。果てたのがバルクホルンの目から見ても、明らかだった。
「最後だけ優しいなんて、ずるいよトゥルーデ…」
果てたハルトマンをバルクホルンは抱き寄せると、肩で息をしながらハルトマンは言葉を続けた。
「責任、とってよね――」
そういって今度は自分からキスをしたハルトマンにバルクホルンは、少しだけ抱きしめる力を強くして、応える。
――すべてがハルトマンの作戦の内だとは、バルクホルンは知らないでいたのだった。