天高く馬肥ゆる秋

秋の日はつるべ落とし。

はて、何を言っているのかと思われるでしょうけれど、これは遥か昔、まだ旧人類が地球を代表する人類として好き勝手やっていた秋を表す時代の諺です。

そうです、今は秋なのです。

クスノキの里では夏が終わると直ぐ冬が来てしまうので、私は短い秋を精一杯楽しむことに手抜きはしないのです。

紅葉が鬱蒼とする森を綺麗に染め上げているのを眺めながら、レジャーシートを敷いて紅茶を啜りながらお手製のお菓子を食べる。

なんて我ながら魅力的なアイデア!

仕事はどうするのかって?

いやですねぇ、ちゃんと助手さんを連れて妖精さんとのコミュニケーションを図る、という『名目』で行う予定ですよ。

――世渡りというものは、要領が良くないと出来ないものなのです。



妖精さんの、秋の夜長



以前、学生時代の友人、いえ、悪友Yが久しぶりに――と、いうか卒業以来初めてですが――私を訪ねてきたときに貰った卒業アルバム。

こういうのって、きっかけが無いとなかなか読む機会ってありませんよね、私の場合も例外なくそうでして、

渡されてから一度も読まずに放置していたのを偶然にも部屋の掃除をしていたら発見してしまいました。

何気なく手に取ると、意外と重い。

気が付くと私は掃除を中断して読み耽っていました。

そうです、掃除中に懐かしい漫画本を見つけるとついつい読んでしまうあの現象です。

ワインレッドの革表紙を開くと、いつ取ったのかすら覚えていない集合写真。私はYの横で、上手いとも下手ともいえない微妙な作り笑いを浮かべているのが鮮明に映っています。

更にページをすすめていくと、授業中の風景、放課後の風景、寮生活での風景・・・・・・余り良い思い出の無い学生生活でしたが、やはり何処か感慨深いものが込み上げて来ます。

――そこで私はふと、気付いてしまいます。

「・・・・・・私の写真、多すぎないですか?」

友人の少なかった私ですが、さすがに学舎内にどの位の生徒が在籍していたか位は知っています。

その数とアルバムに収められている私が写っている写真の数の比率、計算しなくともおかしい事には気付ける程度に、私が目立っちゃってます。

こんな友人の少なかった私の写真なんか沢山作って、誰が得するんだか・・・・・・。いえ、一人くらいは歓喜しそうな後輩を知っていますけど。

「確かこれを編纂したのって」

Y。

そうです、卒業生である彼女自身が何故か自身の卒業アルバムを編纂するという何処か矛盾に満ちた感傷も何も吹き飛ぶような仕事をしていた筈です

「今度会ったら、問い詰めてみましょうかね」

彼女なりの嫌がらせでしょう。

まったく、あの人は・・・。



それから数日の事。

ローンを組んで買ったらしい自慢の蒸気自動車を乗り回し、Y は久しぶりに我が家へとやってきた。

「それで、今日は何の厄介ごとですか?」

「おいおい、つれない事言うなよ。今日は普通に遊びに来たんだ」

彼女が我が家へ来たのは、もう日の傾いた夕方の事で彼女が一息つく頃には外から虫の大合唱が聞こえていました。

「普通に・・・ねぇ」

「おいおい、遊びにきちゃ行けないのか?全くお前は友達甲斐の無い奴だ」

「貴方が仕事以外で家にきたの初めてですから、警戒してるんですよ」

私はそんな軽口をいいながら、Yに何を飲むのか訊ねます。

紅茶、と応えたので取り敢えず台所へ向かい紅茶を入れて、再び部屋へ。もちろんお茶請けのクッキーも添えて。

「それで、最近仕事の方はどうだ?相棒」

「別に・・・、いつも通りですよ」

「いつも通り、妖精関係でトラブル起こしてるわけか」

「そんな事・・・。まぁ、無いといえば嘘になりますけど」

妖精さんに関するトラブルは、私の所為で年間平均の数倍は増えてそうです。あまり考えたくは無いことですが。

「ふぅ、しかしもう秋かぁ。早いもんだな」

突然紅茶を飲みながらしみじみと窓に視線を投げるY。

「そうですねぇ。もう夜は冷え込み始めてて、夜も長くなってきましたし」

「これから冬に向けて仕事が忙しくなると思うと憂鬱だよ」

「ヒト・モニュメント計画ですか?・・・・・・そんなこと言ってまた、同類誌を発行したりしないでしょうね」

「しないしない、流石に懲りたよ私も」

なんて笑いながら彼女はクッキーを一つ摘まんで口へと運びます。何だかこうしていると、少しだけ学生時代を思い出したりして、少しだけ嬉しかったりする私もいたりするのです。



意外と、という訳ではありませんが。

秋の夜長も、こうして友人とお喋りしながら過ごすと早く過ぎるものです。気が付くと時計の針は、もう12時を指そうかとしていました。

「さて、そろそろお開きにしますか。明日は予定ありますか?」

「もうそんな時間か。いや、明日は特に。明々後日までに帰れればいいから明日も世話になるよ」

「さいですか・・・ああ、そうだ寝る前に一つだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

Yは持ってきた鞄をゴソゴソと漁りながら、こちらを見ずに短い返事を寄越します。

私は、先日に掃除をした時から机の上に置きっぱなしだった卒業写真を抱えてYに見せました。

「これ、貴方が編纂したんのでしょう?」

「ん、ああ。そうだが?」

「何故、私の写真だけ一杯載っているのでしょうか」

因みにここまでの私の予想。

候補1:嫌がらせ。

候補2:巻き毛に頼まれた。

候補3:偶々。

候補4:実はYは私のことが好きだった。(大穴予想)

「――っ」

ピタリ、とYの手の動きが止まります。

「やはり嫌がらせですか?」

「・・・・・・」

Yは何も応えません。その沈黙もまた、肯定なのでしょうか。

「それとも、私のことが好きだとか?」

もちろん冗談です。

・・・・・・いいえ、冗談のつもりでした。

Yの顔が見る見る赤くなるのが分かります。こんなに恥ずかしそうに俯いている顔を見るのは、少年の美しい行き過ぎた友情を好む彼女の趣味を暴いた時以来でしょうか。

「――悪いか?」

予想もしない回答が帰ってきます。

残念、私の予想は以外にも大穴予想が正解だったようです。

・・・・・・えええっ!?

い、今、彼女なんて言いました?

「あ、あのー、冗談、ですよね・・・?」

「冗談なんかじゃ、ないさ。」

「あの、それって」

Yは開き直って、私の方を向きなおします。相変わらず頬は紅潮して、吊り目の瞳にはうっすら潤んでいましたが、それでも凄い剣幕で私に詰め寄ります。

「私はお前の事が好きなんだよ!いつからは、覚えてないが。けど、気付いたら、アンタが気になってた」

不覚にも、いつも飄々としている彼女が涙目になっている姿を見て可愛いと思ってしまいました。

だから、でしょうか。

私は彼女の涙を掬い取るように、頬に舌を這わせていたのです。

自分でも驚きの行動に、Yは私以上に驚いた様子です。

「き、急に・・・」

「いけなかったですか?」

「い、いや・・・・・・」

本来、私は同性愛者じゃないんですけどね。

なんというのでしょうか、涙目のYを見ているとついついこうやって嗜虐してみたくなるというか・・・。

「じゃあ、こっちの方も」

そして、私は唇に触れるような優しいキスを落とします。

Yは何が起きているのか、分からないといった様子で目をぱちくりさせています。

「私――貴方の事、どうやら好きみたいですよ?」

自分でも、どうかと思う告白の返しですが、Yは満足気に唇を近づけてキスを要求してきます。それに応えると、再び唇が触れます。

「――」

Yは艶っぽく私の名を呼びました。

いつものYとは違い、なんだか素直で可愛らしい声です。

「何でしょうか」

「もっと、キスしてくれないか?」

「はい、秋の夜は長いですから」



これが今回の事の顛末です。

結局Yは朝になるといつものYに戻っていましたが・・・二人きりのときは甘えてくるようになりました。これも私達の関係が恋人に変わったからでしょうか。

これは後日談になりますが、次の日の朝、おじいさんは気まずそうにそそくさと仕事へ向かう姿を見て、私は少しだけ昨夜の事を後悔したり。

Yが言うには(というか夜の内に白状させたんですけど)、蒸気自動車を購入したのも、就職先がクスノキの里から近いのを選んだのも、全て私に会いやすいようにするためだとか。

いや、まぁ。

嬉しいことは嬉しいんですけれども。

Yって巻き毛以上に私にご執心だったようです。

これからは二週間に一度は遊びに来るようで、おじいさんもその内私達の関係に気付くことでしょう。(もう気付いているかもしれませんが)



昔の技術はどうだったか知りませんが、

今残っている技術では、女性同士で子を成すことは出来ません。

ですが、こうして人類が衰退するのも悪くない。

そう思っている私もいます。



人類は今日も絶賛衰退中です。


某掲示板で人退の百合スレが出来たので記念に書いたss
次はP子ちゃんとの絡み書きたいなぁ
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