ずっと、貴方を見て生きてきた気がする。

ずぅっと昔に貴方と出会ってから、今までずっと。

私の名前を呼ぶ声も、笑顔も、すべて愛おしく思えた。

でも、醜い嫉妬なんかをする私に、聖母の様な貴方を愛する資格なんてないと思えたんだ。



愛する資格



「なのはっ――!!」

「んーなぁにフェイトちゃん」

当たり前のように、ベッドに寝転がった私に覆いかぶさるようにしてダイブしてきたなのはに向けて私は思わず声を荒げた。

はやてを部隊長として出来上がった機動六課の部隊宿舎ではさも当然かの如く、私となのはの部屋は一つだった。

広々としたベッドの上に、私は毎晩悶々とした気持ちでなのはに背中を向けながら過ごしていた訳だ。

なのはの方も新人教育に忙しいらしく、部屋に帰っても毎日デバイスと睨めっこしている。そのお陰か、ここに住み始めてまだ一週間しか経っていないが、一緒のタイミングでベッドに入るということが無かった。

しかし今日はそうはいかなかった――。

私の胸に顔をうずめたなのはは背中まで腕を回して私に甘える。

「フェイトちゃんいい匂いする〜」

私は飛び込んできたなのはを受け止めると、体をねじ込んでなのはの抱きつき攻撃から何とか抜け出す。

「さ、さっきシャワー浴びたからかな・・・。ほら、離れないと寝る前なのに汗かいちゃうよ」

どうやら、珍しくなのはにとって今日の模擬戦は及第点だったらしく今日は私と同じ時間にベッドに潜り込める様だ。

昔から互いの家でお泊り会――私の家でする場合はアルフも一緒に参加していたため二人っきりではないが――で二人同じベッドで寝るということが良くあったが、私は自身の気持ちに気付いてからは、何となく一緒に寝ることを躊躇っていた。

なのはは親友として私に接してきてくれているのに、私はと言えば薄汚い下心と邪な考えだけが頭を回り、そんな自分に嫌気が差した。

だから、はやてが気を利かせて二人部屋にしてくれたことも私にとっては苦痛でしかなかった。勿論嬉しいことは嬉しいが、針の筵に座っているかのような苦痛だけが私を襲う。

今、私となのはは向かい合うように寝ている。

私が背を向けると、なのはが拗ねた様にシャツを引っ張ってくるので、今日は仕方なくなのはの方を見ることにした。

正直自制心が持つかどうか怪しいがなのはに拗ねられるのは私としても気分がいいものではなかった。

なのはは私と久しぶりに向かい合って寝るのが嬉しいらしく、終始笑顔のまま私を見続ける。

「フェイトちゃん、明日は何か予定あるの?」

「うん、明日はクロノと母さんと食事に行くんだ。久しぶりに親子三人で取れた休暇だから、って母さん随分張り切ってるみたい」

「そうなんだー、折角フェイトちゃん誘おうと思ったのになー」

「ごめんね・・・、何処に行く予定なの?」

「んーとね、街にあるケーキ屋さんなんだけど、スバルとティアナがね美味しいから行ってみるといいですよっていうから行って見ようかなって思って。

ん〜、そうだ!」

と、ここでなのはは突然良い事でも閃いたのか、顔をパァッと明らめる。

「ヴィータちゃんも甘いもの大好きだし、明日誘ってみようかな!!よし、そうしよう!」

自分で言って納得すると、なのはは頭上の豆電球を消して、睡眠に入った。

なのはが寝たのを確認すると、私は背を向けてそっと溜息を吐いた。

醜い嫉妬心が心に灯るのを感じた。

ヴィータ、と二人で一緒にケーキを食べているなのはの姿を想像すると、胸を奥が焦がれるような切ない気持ちになった。

他の人に取られる前に、今ここで目の前にいるなのはを奪ってしまえば良いだなんて、何回思ったことか。

だが、私には彼女を愛し、愛される資格なんて持っていなかった。

こんな醜い心を持った人間なんて、なのはと結ばれる資格なんてないんだと思っていたのだ。


朝、目が覚めるとサイドテーブルに置いた時計が日が昇ってから大分経ったことを示しているのに気付いて私は慌てて飛び起きた。

「おはよう、フェイトちゃん」

随分と、まぁ、気合を入れているんだな。

と、可愛い、とか綺麗、とかいう感想よりもそういう嫉妬心が先に来る自分に腹が立つ。

いつ頃買ったのかも分からない、可愛らしいワンピースに身を包んだ彼女を見て私は少し不機嫌になる。ヴィータと会うのに服装に気合を入れているなのはが気に入らなかったのだ。

挨拶し返さない私を訝しげに思ったのかなのはは私の顔を覗き込む。

「フェイトちゃん、具合悪いの?」

「い、いや・・・。少し寝惚けてたみたいだ、ハハハ。おはよう、なのは」

「うん、おはよう」

私はベッドから降り、シャワーを浴びに向かう。

なのはの横を通り過ぎると、去年の誕生日に私がプレゼントの香水の甘い香が漂ってきて――それもまた、私を不機嫌にさせた。

――独占欲。

私は香水をプレゼントした理由を、今ではその独占欲だと思っている。

卑しい感情が、私を不快にさせる。

この気持ちに気付いたのは半年ほど前。

局の友人が寿引退する話を聞いて、自分の結婚する相手を想像した時真っ先に浮かんだのが、なのはの姿だった。

それからだろうか、なのはを親友として接することが出来なくなったのは。

後半へ続く

とりあえず前編。病み気味のフェイトさんはなんとなく書きやすいww
inserted by FC2 system